「収穫期の数週間だけ手伝ってもらっている」「知り合いの紹介だから身元は大丈夫だと思った」「日当を現金で払っているだけで、雇っているつもりはない」――農家・農業法人の現場で、こうした働き方に心当たりはありませんか。
2027年(令和9年)4月1日から、外国人に不法就労をさせた事業者を罰する不法就労助長罪の罰則が大幅に引き上げられます。そして農業は、入管庁の統計で不法就労が確認された外国人の職種として最も多い分野です。繁忙期だけ人手を集めたいという事情と、在留資格のルールがぶつかりやすく、実際に農家や農業法人の経営者が逮捕・有罪となる例が出ています。
この記事では、農業で実際に問題となった事例をもとに、何が不法就労とされるのか、2027年4月から何が変わるのか、そして農家・農業法人が今すぐ整えるべき確認体制を、出入国在留管理庁(入管庁)などの公表資料に沿って解説します。
この記事のポイント
- 2025年に不法就労が確認された外国人のうち、職種で最も多いのは農業従事者(5,227人)。就労場所は茨城県が最多です。
- 「短期間だけ」「日当の現金払い」「知人の紹介」でも、在留資格がなければ不法就労です。観光目的の「短期滞在」の人は、農作業の手伝いもできません。
- 特定技能(農業)の人を、農閑期に工場など別の業種で働かせることもできません。
- 2027年4月1日から罰則は「5年以下の拘禁刑・500万円以下の罰金(併科あり)」に。在留カードの確認を怠るなどの過失があれば「知らなかった」では済みません。
なぜ今、農業の外国人雇用が厳しく見られているのか
入管庁が公表した「令和7年における入管法違反事件について」によると、2025年に退去強制手続等を執った外国人は1万8,442人。そのうち不法就労の事実が認められた人は1万3,435人で、職種別では農業従事者が5,227人と最も多く、建設作業者と合わせて全体の68.8%を占めました。就労場所別では茨城県が3,518人で最多です。
こうした状況を受けて、国や自治体の動きも強まっています。
| 時期 | 主な動き | 農業への影響 |
|---|---|---|
| 2026年1月 | 関係閣僚会議で「外国人の受入れ・秩序ある共生のための総合的対応策」を決定。在留資格の審査の厳正な運用などが柱に。 | 受入れの適正さがより重視される |
| 2026年5月 | 「不法滞在者ゼロプラン~強力推進パッケージ~」を公表。不法就労助長者の摘発強化を新たな施策に。 | 雇う側・あっせんする側への摘発が強化 |
| 2026年7月 | 茨城県が「外国人の不法就労活動の防止に関する条例」を施行。事業者の責務を定め、毎年11月を「不法就労防止推進月間」に。県による外国人雇用状況の調査も規定。 | 県が事業者に雇用状況を調査し、判明した不法就労の情報を警察等に通報する仕組みに |
| 2026年9月 | 入管庁が不法就労対策の強化として、農業分野では農林水産省と連携して啓発を強める方針と報道。 | 農業現場への周知・確認の働きかけが強まる |
| 2027年4月1日 | 改正入管法の施行により不法就労助長罪の罰則を引上げ。技能実習に代わる育成就労制度もスタート。 | 不法就労が発覚した場合の刑事・行政上のダメージが格段に大きくなる |
茨城県は、不法就労者を雇っている事業者に関する情報を寄せた県民に報奨金を支払う制度の導入方針も示しています。「地域ぐるみで黙認されてきた」働き方が、外部から通報される時代に変わりつつあります。
農業で問題となった3つの事例
ここでは判決や報道をもとに、農業で実際に問題となった事例を紹介します(法人名・個人名は伏せています)。
- 概要
- 千葉県警が、農事組合法人の理事ら4人を不法就労助長の疑いで逮捕。理事の1人は現職の市議会副議長でした。
- 何をしたか
- 在留期間を過ぎて不法残留となっていたタイ人6人を、確認に必要な方法を尽くさないまま、2019年9月頃から2025年1月まで、旭市・匝瑳市の畑などで農作業員として働かせた。
- 判決
- 2025年6月、千葉地裁は法人に罰金100万円、理事2人にそれぞれ懲役1年(執行猶予3年)と罰金70万円を言い渡しました。人手不足が背景にあったと報じられています。
教訓:「人手が足りなかった」という事情は、刑を免れる理由になりません。また、法人と理事個人の両方が処罰されています。罰金刑を受けた法人は、一定期間、特定技能や育成就労での受入れもできなくなります(後述)。
- 概要
- 岩手県警が、農場を経営する会社の役員と社員の2人を不法就労助長の疑いで逮捕。
- 何をしたか
- 関東などの技能実習先から失踪したベトナム人13人を、2025年3月頃から住み込みでピーマン栽培などに従事させていた疑い。日給は8千円〜1万円ほどだったと報じられています。
- 背景
- 2025年10月、地域に住む外国人30人余りが旅券不携帯の疑いで一斉に逮捕され、その捜査から雇用先が浮かび上がりました。社員は失踪者のあっせん役を担っていたとみられています。
教訓:宿舎を用意して住まわせることは、不法就労助長罪の「自己の支配下に置く」行為にも結び付きやすい形です。失踪した技能実習生は、在留カードの在留資格欄が「技能実習」のままでも、元の実習先以外では働けません。
- 概要
- 埼玉県警が2026年1月、紹介を受けて外国人を働かせた雇用主側を不法就労助長の疑いで逮捕。同年5月には、あっせんしたタイ国籍の女3人を不法就労あっせんの疑いで逮捕。
- 何をしたか
- 2025年5月から6月にかけて、就労資格のないタイ人を長野県内のリンゴ農園などに紹介し、働かせた疑い。働いた人たちは観光目的の「短期滞在」を装って入国していたとされています。
- ポイント
- あっせん役は紹介の見返りに報酬を得ていたとみられ、海外にも関係者がいる可能性があると報じられています。
教訓:収穫期に「人を回してくれる」ブローカーの存在は、農業の不法就労の典型的な入口です。紹介者がいても、雇う側の確認義務はなくなりません。あっせんした側だけでなく、受け入れた側も逮捕されています。
このほか、特定技能(農業)の在留資格で在留するインドネシア人を、人材派遣会社がクリーニング工場に派遣して働かせたとして、派遣会社と派遣先の役員らが逮捕された事例(2025年9月)もあります。「農業の仕事がない時期だから」という理由で、別の業種で働かせることはできません。
農業で働ける在留資格・働けない在留資格
| 在留資格 | 農作業 | 主な注意点 |
|---|---|---|
| 特定技能(農業) | ○ | 耕種農業全般・畜産農業全般の業務。直接雇用のほか派遣も可能。農業以外の業種での就労は不可 |
| 技能実習(2027年4月〜育成就労) | ○ | 認定された計画の実習実施者のもとでのみ就労可。失踪した実習生を他の農家が雇うことは不可 |
| 永住者・定住者・日本人の配偶者等など | ○ | 就労制限なし(在留期限は要確認) |
| 留学・家族滞在 (資格外活動許可あり) | △ | 原則週28時間以内(掛け持ち合算)。収穫期の長時間労働は超過しやすい |
| 技術・人文知識・国際業務 | × | 農作業は不可(販路開拓・通訳など専門的業務に限られる) |
| 短期滞在(観光・親族訪問など) | × | 報酬を受ける活動は一切不可。日当・現物支給・宿泊提供と引き換えの手伝いも就労にあたる |
不法就労の3つの類型 ― 農業での具体例
入管庁は、不法就労を次の3つのケースに分類しています。
| 類型 | 内容 | 農業での例 |
|---|---|---|
| ① | 不法滞在者や退去強制が決まっている人が働く | 在留期限が切れた人を、収穫期だけ日雇いで働かせる(事例①)/失踪して在留期限を過ぎた元実習生を雇う(事例②) |
| ② | 就労できる在留資格がなく、許可も受けずに働く | 観光目的の短期滞在で来日した人に農作業をさせる(事例③)/資格外活動許可のない留学生・家族滞在の人を雇う |
| ③ | 在留資格で認められた範囲を超えて働く | 他の農家から失踪した技能実習生を雇う/特定技能(農業)の人を農閑期に工場などで働かせる/留学生を週28時間を超えて働かせる |
農業では、「日当の現金払い」「口約束」「知人の紹介」で人を集める慣行が残っていることが少なくありません。しかし、雇用契約書がない、給与を現金で払っているといった事情は、不法就労の責任を軽くするものではありません。むしろ、確認の記録が残らないことで「過失あり」と判断されやすくなります。
罪の構造 ― 誰が、どこまで責任を問われるのか
1. 処罰の対象は「雇用主」に限られない
不法就労助長罪(入管法第73条の2)は、事業活動に関し外国人に不法就労活動をさせた者のほか、不法就労活動をさせるために外国人を自己の支配下に置いた者や、あっせんした者も処罰の対象としています。宿舎を提供して住まわせる、旅券を預かるといった行為は「支配下に置く」と評価されやすく、紹介役のブローカーも処罰されます(事例②③)。
2. 「知らなかった」では処罰を免れない
同条第2項は、外国人の在留資格や就労できる範囲を知らなかったことを理由に処罰を免れることはできないと定めています。例外は過失がない場合だけです。事例①の判決でも、確認に必要な方法を尽くさなかったことが認定されています。在留カードを一度も見ていない、紹介者の話をうのみにした、という状態では、過失ありと判断される可能性が高いでしょう。
3. 両罰規定で「法人」も罰せられる
入管法第76条の2の両罰規定により、違反行為をした理事や従業員だけでなく、農業法人・農事組合法人そのものにも罰金刑が科されます。事例①でも法人に罰金100万円が言い渡されました。
2027年4月1日から何が変わるのか
2024年に成立した改正入管法により、2027年(令和9年)4月1日から不法就労助長罪の法定刑が引き上げられます。同じ日に、技能実習に代わる育成就労制度も始まります。
| 項目 | 現行(2027年3月まで) | 改正後(2027年4月1日〜) |
|---|---|---|
| 拘禁刑 | 3年以下 | 5年以下 |
| 罰金 | 300万円以下 | 500万円以下 |
| 併科 | あり | あり |
罰金刑でも生じる主な「その後」の影響
- 特定技能(農業):入管法違反で罰金刑に処せられ、執行終了等から5年を経過しない者は、特定技能所属機関になれません(欠格事由)。派遣で受け入れる場合の派遣元・派遣先の要件にも影響します。
- 技能実習・育成就労:計画の認定についても同様の欠格事由が設けられています。2027年4月以降、育成就労での受入れもできなくなります。
- 地域への波及:茨城県の条例のように、自治体が事業者の雇用状況を調査し、警察等へ通報する仕組みも動き始めています。
正規の外国人材(特定技能・育成就労)に頼る経営に移行しようとしても、過去の不法就労助長が欠格事由となり、その道がふさがれてしまう――これが農業経営にとって最も大きなリスクです。
農家・農業法人が今すぐやるべき3つのこと
① 「短期だけ」の人も含めて、在留カードを原本で確認する
収穫期の短期雇用や、知人・紹介者から来た人も含めて、働き始める前に在留カードの原本で次の項目を確認してください。
- 在留資格(「短期滞在」の人は働けない。「技能実習」の人は自分の農場の実習生かどうか)
- 在留期限(期限切れになっていないか)
- 就労制限の有無・資格外活動許可の有無(2026年6月14日以降に発行された「特定在留カード」は表面に記載)
- 入管庁の「在留カード等読取アプリケーション」と「失効情報照会」で偽変造・失効の有無をチェック
- 確認した日・確認者・カードの写しを記録として保管
② 紹介・派遣のルートを見直す
- SNSや口コミの「人を回します」という紹介者・ブローカー経由の受入れをやめる
- 派遣で受け入れる場合は、労働者派遣事業の許可を持つ事業者か、特定技能(農業)の派遣の要件を満たしているかを確認する
- 派遣元が確認していても任せきりにせず、自分の農場でも在留カードを確認する
- 宿舎の提供や旅券の預かりなど、「支配下に置く」と疑われる運用をしていないか点検する
③ 正規の受入れ制度で人手を確保する計画を立てる
繁忙期の人手不足を不法就労で埋めるのではなく、特定技能(農業)や2027年4月からの育成就労など、正規の制度で人材を確保する計画を立てましょう。特定技能(農業)は派遣形態も認められているため、繁忙期の異なる地域間で人材をリレーする取組みも行われています。雇用契約書・賃金台帳・勤怠記録を整え、確認したことを記録に残すことが、万一のときの「過失がなかった」ことの証明にもつながります。
よくあるご質問
- 収穫期の数日間だけ、知り合いの外国人に手伝ってもらいました。日当は現金で渡しています。これも不法就労ですか?
- 報酬を受ける活動であれば、期間が短くても、支払いが現金でも「就労」にあたります。相手が短期滞在や在留期限切れなど就労できない人であれば不法就労となり、働かせた側は不法就労助長罪に問われ得ます。働く前に必ず在留カードを確認してください。
- 観光で来日した親族に、農作業を手伝ってもらうのも問題ですか?
- 「短期滞在」の在留資格では、報酬を受ける活動はできません。お金を払わなくても、宿泊や食事の提供などを対価として作業してもらえば就労と判断されるおそれがあります。継続的に手伝ってもらう形は避けてください。
- 特定技能(農業)の人を、冬の農閑期だけ近くの食品工場で働かせてもよいですか?
- できません。特定技能(農業)で認められているのは農業分野の業務です。別の業種で働かせれば資格外の活動となり、2025年9月には、特定技能(農業)の外国人をクリーニング工場に派遣したとして派遣会社と派遣先の役員らが逮捕されています。農閑期の働き方は、在留資格の範囲内で計画してください。
- 現在、在留資格がはっきりしない外国人が農場で働いています。どうすればよいですか?
- まずは本人の在留カードを確認し、就労できる在留資格かどうかを確かめることが先決です。不法就労の疑いがある場合は、それ以上働かせることは避け、早めに専門家にご相談ください。そのうえで、特定技能や育成就労など正規の受入れ方法を検討することが重要です。
まとめ
農業における不法就労助長罪のリスクは、「短期間だけ」「紹介だから」「現金払いだから」という慣行の中に潜んでいます。短期の手伝いも含めて在留カードを確認すること、紹介・派遣のルートを見直すこと、そして特定技能や育成就労など正規の制度で人手を確保する計画を立てることが欠かせません。
2027年4月の厳罰化と育成就労の開始まで、残された時間は多くありません。次の繁忙期を迎える前に、今のうちから確認体制を整えておきましょう。
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※本記事は2026年11月時点の法令・公表資料および報道に基づいて作成しています。個別の事案の判断は状況により異なりますので、具体的なケースについては専門家にご相談ください。摘発事例は報道に基づくもので、被疑事実の段階のものを含みます。
参考資料
- 出入国在留管理庁「令和7年における入管法違反事件について」
https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00011.html - 出入国在留管理庁「外国人の適正な雇用にご協力ください」(不法就労の3類型、在留カードの確認ポイント、不法就労助長罪の厳罰化)
https://www.moj.go.jp/isa/content/001462230.pdf - 千葉地方裁判所 令和7年6月12日判決(出入国管理及び難民認定法違反被告事件)
https://www.courts.go.jp/assets/hanrei/hanrei-pdf-94228.pdf - 茨城県「茨城県外国人の不法就労活動の防止に関する条例」(令和8年7月1日施行)
https://www.pref.ibaraki.jp/soshiki/shokorodo/rosei/shishin.html - 出入国在留管理庁「農業分野における特定技能外国人の派遣先事業者誓約書」(分野参考様式)
https://www.moj.go.jp/isa/content/001440512.pdf - 出入国在留管理庁「改正法の概要(育成就労制度の創設等)」
https://www.moj.go.jp/isa/content/001415280.pdf - 出入国在留管理庁「不法滞在者ゼロプラン~強力推進パッケージ~」について(2026年5月)
https://www.moj.go.jp/isa/09_00048.html - 出入国在留管理庁「特定技能雇用契約及び1号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令」関係資料(欠格事由)
https://www.moj.go.jp/isa/content/001440289.pdf - 摘発事例:千葉日報・産経新聞ほか各社報道(2025年2月・6月)、集英社オンラインほか各社報道(2026年2月)、毎日新聞(2026年5月)、NHK・産経新聞(2025年9月)



